サインはAV


「あーぁ。暇だなぁ」

久しぶりの休日を、グレイは無意味に過ごしていた。
自室のベッドにひっくり返り、ぼけーっと天井を仰ぐ。
「グレイ!!入るぞ〜!!」
突然の大声。ノックも無いままに豪快に扉が開かれる。
「おい!!ノックぐらいしろよ!!」
グレイは驚いてベッドから飛び起きた。無惨に開け放たれた扉の前でアルムが満面の笑みを浮かべている。
「別に良いだろ〜。見られちゃやばいことしてた訳でもないだろ。」
図々しくずかずかと部屋に入り込んだアルムは、勝手に床に座り込む。
「で、……。俺に何のご用ですか〜?」
嫌みたっぷりにグレイはアルムの顔を睨み付けた。
「おいおい。そんな態度でいいのかな〜。絶対お前が喜ぶもの持ってきてやったのにな〜。」
おちょくるような物言いのアルム。
「は?俺が喜ぶもの??なんだ?」
意味が判らずに、グレイは訝しげに首を傾げる。
「なんでしょう〜。」
アルムはグレイが話に載ってきたので、満足げに言葉を濁す。
「むかつくな………。もういいよ、でてけ!」
アルムの態度にグレイは早々に怒りを露わにする。
「ほんと、お前は気が短いなぁ。これだよ、コ・レ!!」
突然アルムは紙袋をグレイの眼前に突きだした。アルムのいきなりな行動に、グレイは反射的に身構える。
しかしそれが何の変哲もない紙袋だと判ると、一瞬眉をひそめてちっと舌打ちした。
「は?コレが?ちょっと見せてみろ!」
グレイはアルムの手から紙袋を奪いとった。しかし、アルムは文句を言うでも無く、にやにやと笑いながらグレイの手に移った紙袋と、グレイの顔を交互に見つめる。
「な…なんだよ。」
グレイはそんなアルムを不気味に思い、紙袋の中を見るのを躊躇した。
「中身、見てみろよ。」
アルムは相変わらずにやついたままグレイをせかす。
「ホントに俺が喜ぶものなのかぁ……??」
なにげにびびりつつ、グレイは紙袋の中に手を突っ込んだ。手に角張った堅い感触を感じる。躊躇していても仕方がない、グレイは意を決して中のものを取り出した。
「な…何だこりゃ…。」
グレイは暫し絶句した。
「どうよ、凄いだろ。」
大層誇らしげに、アルムが余裕の笑みを浮かべる。
「凄いって…これ、ただのAVじゃん…。」
グレイの言うとおり、その手に握られているのはAVビデオ。今更AV見せられて喜ぶほどの歳ではない。それでもアルムの自信ありげな表情は崩れることは無かった。
「主演女優見てみ。驚くぜ〜。」
ビデオのパッケージを指さして、アルムはくくっと笑う。
「女優って………は?………えぇぇっ!!!!な…なんだよコレ…。」
グレイの目はパッケージに釘付けだ。そして、グレイの予想通りのリアクションにアルムは満足げだ。
「な、驚いただろ!」
そんなアルムの言葉など、グレイの耳には既に入っていなかった。
ぽかんとしばらく口を開けたままだったが、次第に口元が緩みだしていく。
「マジ、似てるって…。」
そう言ったグレイの顔は、既に緩みきっていた。


ところで、何にそんなに驚いているかというと、アルムの持ってきたAVの主演女優が微妙にロビン似なのである。正面から見た感じはそれほどでも無いのだが、遠目に見た感じと、横顔がかなり似ている。髪もショートボブであまり違和感がないのだ。

「まぁ…世の中に似た顔が3人はいるって言うし。こういうのも有りだよな〜。」
相変わらず緩みきった表情のままグレイは嬉しそうに語る。
「これ、みんなに見せたら大抵の奴らはロビン?って言うぜ〜。」
アルムは、パッケージを見ながら頷く。
「ところでさ、どこで手に入れたんだ?こんなもの。またヤ●オクか?」
冗談っぽくグレイはアルムを肘で小突く。
アルムはにやっと笑ったまま何も言わない。
「やっぱりそうなのか?だよな……。他に手に入れる手段無いもんな。」
アルムはうんうんと頷く。
国の税金使ってインターネットをし、こんなものを買っているかと思うと情けなくなってくる。
ため息一つ、グレイはガックリと肩を落とした。
「税金の横領で捕まるなよ〜。俺、まだ捕まりたくねえからな……。」
平然とするアルムを横目に、グレイはため息をつく。
まだ、ということは何か他にやましいことでもしているのか?グレイ!!?
「それはそうと、早速見ようぜ〜!!」
アルムはさっさとパッケージを開けてビデオを取り出す。
「いや…なんかさ、凄い後ろ暗いような気もするんだけど…。」
一応の所、自制してみるグレイ。
「なんで?」
不思議そうにアルムはグレイの顔色を窺う。
「熱でもあるのか?」
いそいそとグレイのおでこに手を当てると、アルムは「無いなぁ」と一言。
「馬鹿!熱なんてねぇよ。」
眉間にしわを寄せつつ、グレイはアルムの手を払いのけた。
「絶対グレイの事だから食いついて来ると思ったのにな。意外と冷静なんだ。」
払いのけられた手を軽くさすり、アルムは腕を組むとうんうんと頷く。
「何かむかつくな……。」
グレイはアルムの態度にムッとする。
「じゃあ見ないの?持って帰るからな。」
わざとらしくビデオを紙袋に戻そうとする。
「ちょ〜っと待て。」
慌ててグレイはアルムの手を制す。
「誰も見ないなんて言ってないだろ!!」
「やっぱりな……。」
思った通りのグレイの対応に、アルムは微笑した。
「それでは〜お待ちかね。どんな話かな〜!!」
何故か既に興奮気味のアルムは、ビデオをデッキにセットするべく手を伸ばす。
「ちょっと待て!お前も見るのか?っていうかお前まだ見てないのか?」
グレイは慌ててアルムの手をつかんだ。
「ああ。まだ見てないよ。とてもセリカの前じゃ見れないだろ〜。」
アルムははっはっはと笑う。
「そりゃそうかもしれんけど……。」
「けど……なに?」
「何でお前と仲良くAV見にゃならんのだ?」
グレイはあきれ顔でアルムを睨む。
「だって、俺だって見たいもん。」
アルムは平然と言う。
「なんか、お前にこのビデオ見られるのすっごくイヤなんだけど……。」
そりゃそうだ。自分の好きなロビンに似た子が乱れるシーンなんて、いかに別人といえども他の奴らには見せたくないものだ。
「え〜。だったらお前にも見せない。」
アルムはビデオを後ろ手に隠した。
「う………。それは困る。」
いかに自制を繰り返そうとも、やっぱり見たいと思う好奇心を抑えきれないグレイは言葉を濁す。
「な、良いだろ?別にロビンに似てるってだけで、ロビンじゃないんだからさ〜。」
上手く丸め込もうと、アルムは言葉巧みにグレイを煽る。
「コレは、日頃健気に国を思って頑張ってきた俺への、ミラ様からのご褒美なんだよ♪」
無理矢理な良い訳をこじつけて、アルムは勝手に正当化した。
「よくわからんが……。仕方ないな……。よし、見るか!!」
グレイの中にあった後ろ暗い気持ちも、結局は『見たい!!』と思う好奇心の前にあえなく敗れ去って消えた。所詮グレイの自制心などその程度のものだったのか…。
「では、始まり〜。」
待ってましたとばかりに、アルムがビデオを押し込んだ。
緊張の面もちでビデオの始まりを待つ二人。
「なんかさぁ、たかがAV見るのにこんなに緊張するのなんて13歳くらいの頃以来だ…。」
「はは…確かに…。」
グレイの言葉に、昔こっそり皆で見たAVビデオを思い出したアルムだった。
そう言えば、あれは13歳くらいの頃だったか。あの時もこっそり手に入れたビデオをグレイと一緒に緊張しながら見たものだ。アルムは小さく苦笑した。


程なくしてビデオは始まった。強姦ものの2本立てで、ロビン似の女優がメイド姿と高校生姿でオープニングに出てくると、二人そろっておぉっと声を上げた。
「やべえよ。やべえ!絶対ヤバイ!!!」
興奮気味に、グレイはヤバイを連発した。ヤバがっている割には画面から目を逸らせようとはしない。
「可愛いなぁ。ロビンのメイド姿はこんな風なんだ〜。」
アルムがにやける。
「おい!アルム!!変な想像してんじゃねぇよ!!!」
「なんだよ!想像すら禁止かよ!!」
「だからお前と見るのは嫌だったんだ!!」
などと言い合いを始めるものの、話が進んでいくと二人は黙って画面にかじり付いた。
「あ〜、いいなぁ。」
「………ほぉ〜。」
「……………。」
「………。」
「……。」
「…。」
次第に口数も減っていく。
ビデオが終わりに近づく頃には、二人して黙ったまま、イイコに正座していた。

「……。可愛かったな……。」
一通りビデオを見終わると、グレイはぽつりと呟いた。
「でも……。やっぱ本物にはかなわねーな。」
グレイはにやりと笑い頷いた。
そんな様子を見ながら、アルムは怪訝そうに眉をひそめる。
「はい〜。ごちそうさまです〜。」
アルムは嫌みを込めて頭を下げた。
くくくっと、グレイは勝ち誇ったようににやついた。



「グレイ〜。居る?入るよ〜。」
「……………!!!!!!」
突然ドア越しに掛けられた声に、二人は飛び上がるほどに驚いた。
いや、実際3cmは浮いたに違いない。
「ちょ…ちょ…ちょ………ちょっと待て!!」
グレイが、そう言うが早いが扉は無惨にも開けられた。
ビデオは自動で巻き戻されて既に2度目の放映を始めている。
アルムは慌ててテレビの前に立って画面を隠す。
グレイは音を紛らわせるためにあ〜あ〜♪と発声練習を始める。
その様子に、ロビンは何事?とでも言いたげに目を丸くする。
「………あ。アルムも居たんだ。もうすぐ夕食だけど………。」
二人のせわしない様子を疑問に思いながらも、ロビンはとりあえず用件を述べる。
「そうか!すぐ行くから!!」
アルムは声を張り上げるとさっさと行けよ!とでも言いたげに手を振った。
「な〜んか……。怪しいな。」
ロビンはあからさまな二人の態度につかつかと部屋に入り込むと二人の顔を交互に見比べる。
「何してた?」
グレイに問いかけるが、グレイは相変わらずあ〜あ〜♪と発声練習を止めようとしない。
「アルムは何してんの……。」
テレビの前でぎこちない動きを見せるアルムに冷たい視線を送る。
「何でもないよ。」
満面の作った笑顔が余計に後ろめたさを倍増させる。
と、その時アルムは自分の足下にあるビデオのパッケージに気が付いた。
可愛い笑顔が笑いかけている。
(やべ〜〜!グレイ!早く気づけ〜〜!!)
アルムはグレイに目で合図した。
(は?何だアルム!!?)
しかし、グレイには何も伝わらない。
(アホグレイ!!!)
アルムは必死に目を見開いた。
「…………あ。」
不審に感じたアルムの目線の先に気付いたのは、グレイではなくロビンだった。
パッケージを拾い上げるとじっと見つめる。
「あ……。」
二人は声を揃えて絶句した。
「いや、別にやましいコトしてた訳じゃないぜ?」
「そうそう、俺が細工した訳でもないし。」
勝手に二人は墓穴を掘っていく。
「……………。」
ロビンは無言のままだ。

「あ……あぁん。だめぇ……やんVvv。」

(ひえぇぇぇ〜〜〜〜。)
静まりかえる部屋の中に、あえぎ声と腰を動かすたびに聞こえる妖艶な音が、何故か非常にはっきりと聞こえた。
三人の間を気まずい空気が流れていく。
暫く黙っていたロビンだったが、ビデオのパッケージをアルムに渡すとさっさと部屋を後にする。
「ロビン!?」
アルムが慌てて声を掛ける。
「別に、健全な男ならエロビデオぐらい良いんじゃないの。」
二人の心配をよそにロビンは素知らぬ顔で言う。
「………怒ってない?」
グレイがロビンの顔色を窺う。
「怒ってないよ。なんで。」
「だって……それ、ロビンに似てない?」
グレイがおずおずと聞く。
「似てないよ。」
「そ………そうか?」
「うん。」
グレイとアルムは口元を引きつらせながら目配せをする。
「じゃ、先に行くから。」
ロビンはそう言うとさっさと部屋を後にした。
ばたんとドアは閉められて、再びビデオの音だけが虚しく流れる。
「似てない訳ないって。」
アルムは確信ありげに頷く。
「絶対……怒ってるよ。」
「だよな……。」
「あんなに冷静に対応する訳無いもん……。」
グレイはは〜っと肩を落とす。
「まぁグレイ!しっかり言い訳するんだな!」
「何を……。」
「………。まぁ、色々と。」
「……………。」
「……………。」
「………くっ…はははっ。」
 突然グレイはしばしの沈黙に絶えきれなかったように笑い出す。
「………。」
そんなグレイの様子をアルムはあきれたように無言のまま凝視していたが、グレイの笑いが移ったのか突然アルムも声を上げて笑い出す。
「まあ良いじゃん良いじゃん。コレも立派な社会勉強ってね。」
「そうそう、問題無い無い。」
乾いた笑いが部屋に充満する。
何となくその場の雰囲気を笑いで飛ばそうと四苦八苦しているのが手に取るように判る。
「はっはっは。」
「はっはっはぁ……。」
「はぁ……。」
笑いはそして、ため息と移り変わりそして消えた。

「あっ!だめぇ…いくぅ!!」
相変わらずビデオはノンストップ。
更にガックリと、二人は肩を落としたのだった。



結局その後、グレイは3日間ロビンに無視され続けたらしい。




    なんとか『オチ』ついた所でおわる。






な〜にを仲良くAV見てんだよ!!そこの二人ぃ!!と、突っ込みたくなるでしょう。実際ワタシも突っ込みましたから。
と、つっこみはとりあえずおいておいて……。今回ツメの甘さに痛感しております。結局オチが見つからずグレイ達のみならず、私もかなり四苦八苦。途中まではノリよくペンが進んだんだけど…。一度止まると再び進み出すのにかなり一苦労でしたわ。あ〜。だから連載ものって途中で嫌になるのかなぁ。

しかし、AVビデオっていまいちあんまり好きじゃ無いです。あのわざとらしい喘ぎ声とか(笑)なんで見てんの?とか突っ込まないで下さいよ。それよりもエロ本の漫画で女の子が乳汁出てるのとかあるんだけど……。あれ、可笑しくない?乳なんて授乳中しかでないでしょ。あれ、何が出てるんだろう。旦那に聞いてみたけど知らんと言われました。童貞作家が想像のままに書いたのかな。乳から汁は出ないよ。多分。いや、出る人もいるのかな?気になるなぁ………。