バレンシア不思議発見!

そこは、人を寄せ付けぬ漆黒の洞窟。
そんな闇の中にぽつりと灯る小さな光。
はぁはぁと、荒い息づかいが終わりを知らない洞窟に木霊する。

「やった!!!」

暗い洞窟に歓喜の声が響いた。
「ついに…ついに見つけたぞ!この泉こそ…俺の探し求めていたものだ……!!」
額に浮かぶ汗を拭う。それは、嬉々として満足げに頷くクレーベだった。
そして目の前の対になり滾々とわき出る泉を見つめながら、感慨深げだ。
「この文献に書いてある通りだ。正に…これは男泉と女泉に違いない。」
力強くクレーベは頷いた。
そして一冊の本を高く掲げる。その本の表紙には『バレンシア不思議発見!』と書かれている。かなり古い本なのだろうか、所々破れている。

さて、『バレンシア不思議発見!』について説明しよう。
この本は、その名の通りバレンシアの不思議について取り上げられた、既に十数年前に廃版になっているかなりマニアックな本である。今や、不思議発見マニアにとっては喉から手が出るほど欲しい魅惑の代物なのだ。

何故クレーベがそんなマニア執権の本を持っているかと言うと、何気なく立ち寄ったブック●フソフィア店にて、これまたたまたま手に取った本がこれだったのである。正に運命的な出会いだった。
それは、今まで二十数年生きてきて、漫画しか読んだことのなかったクレーベが、初めて読んだ活字だった。しかし、クレーベはその本にのめり込んでいた。時がたつのも忘れ読みふけり、気付いた時は既に次の日のお昼だった。それは、三食欠かさず食べるクレーベが、初めて断食するほどもの凄い事だったのである。
本を読み終えると途端に空腹を感じる。夕食と朝食ぶんを埋めるかのように、昼食にがっついたクレーベは、瞳をランランと輝かせていた。そして、楊枝でシーハーしながらふと思ったのだった。
「バレンシア不思議発見!!!」
と……。
次の日、クレーベは探検家なら必ずこの格好と言うべき、ひ●し君人形の格好をして冒険の旅に出たのだった。
まず手始めにクレーベが目を付けたのは、バレンシアの秘密其の29『妖艶な声が聞こえる井戸』だった。実はリ●グの大ファンなのである。いつか貞子役で世間を恐怖の渦に巻き込んでやろうと、かすかな夢を抱くほどだった。
「なになに?井戸の場所は……ミラ神殿………って……嫌な予感がするな………。」
と、クレーベは眉間にしわを寄せる。そして、訝しげに噂の井戸を覗いてみる。
井戸から声は聞こえない。冷たい風だけがクレーベの頬にかかる髪を揺らす。
試しにクレーベは井戸に向かって声を掛けてみた。
「お〜い!!」
すると、井戸の奥からかすかに物音が聞こえてくる。
「………し……こ……じゃ…………。」
しゃがれた声らしきものも聞こえてきた。
「ああん?何だこの声。全然妖艶じゃないじゃないか。」
そう愚痴るクレーベの耳に、今度ははっきりと、声が聞こえた。
「ワシはここじゃ〜〜だれか〜助けてくれんかの〜〜〜。」
「………。」
クレーベの額に血管が浮き出る。聞き覚えのあるその声に沸々と怒りが込み上げてきていた。
見事にクレーベの嫌な予感は的中していたのだった。
「誰かそこにおるんじゃろ?ワシじゃ〜。お〜〜い。」
怒れるクレーベをよそに、間の抜けたジジイの声がいつまでも響く。
「………ガセかよ!!!」
 ズカ〜〜〜〜〜〜ン!!!!
クレーベの怒りが、まるで吸い込まれるかのように見事に井戸の中に落ちる。
それきり井戸の中から声が聞こえることはなくなった。
「………ちっ!!」
クレーベは舌打ちをすると、静かにその場を後にした。

気を取り直し、クレーベは本をパラパラとめくった。その瞳はあるページで止まる。
「男泉、女泉か………。」
クレーベの表情が緩んでいく。何か良からぬ考えの浮かんだ証拠だ。
バレンシアの秘密其の73『男泉、女泉』。なんでも男泉を女性が口にすると男性に、女泉を男性が口にすると女性になると言うらしい。もちろん男泉を男性が、女泉を女性が飲んだ場合はなんの変化も無い。混ぜて飲むとおかまになるとか…その辺は明かされていないらしい…。
「これをルカに飲ませれば……。俺とルカの可愛らしいベイビィが………。」
にやけ顔でぶつぶつと呟くクレーベ。
絶対優性のクレーベの遺伝子を引き継いだクレーベJrが誕生する日が近い!世界の終わりが確実に一歩近づいた。
「おっと、そうと決まったら早速……。」
と、クレーベの取り出したのは1.5リットル使用済みペットボトル2本。泉の水で軽く中を濯ぎ、それぞれの泉をくみ上げた。
「まぁ、これだけあれば十分だろう。」
一人頷くと、意気揚々とその場を後にした。
何とか洞窟から抜け出たクレーベは久しぶりに浴びる太陽の光を全身に受け止めた。迷いに迷ったあげくかれこれ一週間は洞窟内にいたらしい。髭は伸び放題、髪はぼさぼさ。正に探検帰り丸出しである。
「おっと、俺としたことが!!」
慌ててクレーベは近くの民家に押し入り、快く(?)お風呂とご馳走を頂き民家を後にした。
「……しかし、いきなりルカに飲ませるのは気が引けるなぁ……。」
一人、アジトへ向かいながらクレーベはふと思ったのだった。流石のクレーベも不安になるらしい。暫くう〜ん、う〜んとルカのために必死に考えを巡らせた結果、まずは適当な奴らで試してみようという結論に達した。
手頃な実験台を求めて歩き回ること数時間。一向に眼中に人は現れない。苛々も頂点に達し始めたその時、見覚えのある村にたどり着いた。
「お!ここはラムの村。ここにはいい実験台がいるぜ!!」
途端に表情が明るくなる。生け贄を求める飢えた野獣の如く、クレーベは肩で風を切りながら村へと突入した。
「あれは!!!」
クレーベの眼前に畑仕事に精を出す村人が捕らえられた。クリフとロビンである。
「今年はいまいちだねぇ。」
「天気の悪い日が多かったからね。」
野菜の出来映えについて語っているらしい。その余りにも村人らしい振る舞いに思わず吹き出しそうになるのをクレーベは必死に堪えた。
「なぁ。アルム、きび(トウモロコシの事)とって良いか〜?」
「まだ早いんじゃねぇの?」
又別の声が聞こえてくる。奥の畑でグレイとアルムがトウモロコシの収穫時期について話しているようだ。
麦わら帽子に軍手、首にはタオル。足下はもちろん長靴である。ダッ●ュ村の如く、農作業の基本スタイルである。健康的に日焼けしているアルムとグレイとは対照的に、クリフとロビンはおばさま愛用の目しか出てない日焼け対策ばっちりの帽子に、ておいまでして完全防備の野良仕事。この世界も紫外線の問題は重大らしい。
暫しそんな村人達の様子を探っていたクレーベは、すっかり本来の目的を忘れ、その様子を面白可笑しく眺めていた。



         つづくのだ!



ども〜ん。久しぶりに完璧ギャグ路線な話を書いています。
自己中完全俺様主義のクレーベ大活躍。すみませんねぇ(汗)うちのクレーベはこんなキャラで…(笑)さて、とりあえず続きます。まぁ後半はありがちな話になるでしょう。多分。私、続き〜ってしてもなかなか続きを執筆しないという悪い癖がありまして…(汗)続き…できれば早めに上げますが…あまり期待しないでくださいませ。とりあえず夏までには書くんで…(滝汗)