「本当は、戦いなんてしたくないんだろう…?」

  誰かに問いかける訳ではない。
  それは、自問自答。
  自分自身に問いかける。
  戦う気が無いのか。
  それとも、
  戦いたく無いのか。
  誰にも解らない。
  自分自身が解らないのだから。
  誰かが解る訳がない。


  だけど、
  これだけは言える。


  今、戦いを止める訳にはいかないということ。
  今、逃げてしまうことは楽だけど、それは一生自分を苦しめることになる。
  わかっている。
  わかってはいるけど、
  だけど、
  もう、
  これ以上…




        琥珀の月




  時は目まぐるしく過ぎ去っていった。村を飛び出したことがまるで遠い昔の出来事のように。
  いつの間にか回りにいる皆は一回りも、二回りも逞しくなったように思える。
  身体だけではなく内面的にも。


  それなのに、自分はどうだろう。
  何が変わった?
  どこか変われた?


  日に日についていく力の差。
  皆が一撃で倒す盗賊も自分ではまるで歯が立たない。
  あざ笑っているかのように自分をねらう盗賊達。
  「あぶないから下がっていて!」
  当然のように自分の前に立ち前線を守るクリフ。
  こんな事、今まで言われたことなんて無かったのにね。
  全て、変われない自分のせいなのに。
  悔しくて、
  悔しくて…、
  とても、
  辛い。


  皆と同じように戦っていた。
  日々の鍛錬だって怠ったつもりはもちろん無い。
  それなのに、歴然と表れていく…。
  腕、足、胸。
  全てが村を出た時と変わらない。
  鍛えているはずなのに一向に太くならない。

  こんな細い腕で剣なんて振り抜けるのか?
  こんな細い足で斬り合った時に耐えきれるのか?
  こんな自分が、戦い続けることなんてできるのか?

  なぜ、強くなれない?
  何がいけない?


  「今日も一日お疲れさん!」
  そう言って笑うグレイ。
  程良くついた筋肉。
  こんなに、グレイの腕って逞しかっただろうか?
  やっぱり、自分とは違う。
  「おい!聞いてるのか?今日は野営だぞ!いくぞ!」
  そう言ってグレイに手首を捕まれ引っ張られる。
  グレイの指が軽く手首を回る。

  嫌だ、
  いやだ、
  イヤだ…。

  咄嗟に振りほどき自分の手首を掴む。
  自分で思っていたより、細い。
  村を出る時よりも細くなっているような気がする。


  なぜ?
  何が、いけない…?


  「どうした?」
  グレイがいぶかしげに顔をのぞき込む。
  「なんでも、ないよ。ごめん」
  多分、情けない顔をしていたと思う。
  「そうか?」
  グレイはそれ以上追求しない。それが何よりだった。
  これ以上、こんな情けない自分をグレイに見られたくなかったから。

  グレイだけではない。日に日に取り残されていく自分を、これ以上皆に見られたくない。
  周りの目が、まるで自分を重荷に感じているように見えてきてしまう。
  皆はそんなこと思うはず無い。
  そう心では思ってみてもやっぱり自分自身、皆の重荷であることは否めない。
  誰よりも、自分が、自分自身に腹が立つ。
  自分で、自分が、一番許せない…。


  もう、いっそこの場から逃げ出してしまいたい…。
  そうすれば、楽になれるのだろうか?






それは一瞬の出来事だった。
斬りかかろうとする剣士。
剣士の切っ先はロビンに向かって、今まさに振り下ろされんとする寸前だった。

  よけられない!

そう、ロビンが思った時だった。
なんの躊躇もなく、剣士とロビンの間に割り込んできた影。

  ザシュッ!!

何かが切れる嫌な音がした。
同時に、ロビンは目の前の人影と共に倒れ込んだ。

  …グレイ……!!?

苦痛に顔をゆがめるグレイ。
見る見るその表情から血の気が引いていく。


 瞬く間に、
 血が、
 ゆっくりと、
 あふれ出す。

 肩がぱっくりと割れて、
 傷口から、
 ドクドクと…。

 流れる血は、
 ロビンの
 手を、
 腕を、
 胸を、
 赤く染めていく。

 本当ならこれは自分の血の筈なのだと、ロビンは呆然とした。
 それなのに…。
 グレイから、
 血があふれ出す。


「とどめだ!」
剣士の剣が頭上に振り上げられた。

 このままでは…グレイが…!!

ロビンは慌ててグレイに上からしがみついた。
「…馬鹿野郎!な…にしてるんだよ!逃げろよ!!」
グレイの言葉にかまわず、敵に背を向けて次に来る衝撃に目を閉じた。

「うぐッ………」
しかし、振り上げられた剣士の腕は、ロビンを斬りつけぬままその身体と共に崩れおちた。
おそるおそる顔を上げると、背後には険しい表情のアルムがいた。
「グレイ!ロビン!大丈夫か!!?」
慌てて駆け寄るアルムに、ロビンは何も言えずに首を横に振った。
斬られそうだったことが怖かったんじゃない。
自分のせいでグレイに傷を負わせたということが、とても怖かったのだ。

 グレイの血は、
 止まらない。

 溢れる血を、
 自分ではどうすることもできない。

ロビンは震える指でグレイの服を握りしめていた。
「急いでシルクを呼ぼう!」
アルムはそう言うと、自分が着ているシャツを破りグレイの傷口に当てた。
見る見るシャツは真っ赤に染まっていく。
そして、ゆっくりとグレイを安静に横たえた。
「うぅっ………」
くぐもった声がグレイの喉から鳴る。
「グレイ…!」
咄嗟にロビンは声をかけた。
グレイは苦痛に顔をこわばらせながら、ロビンを睨み付ける。
「な…なんでよけなかったんだ!」
激痛に耐えながらグレイはそう言った。
「ごめん、俺のせいで…俺が、しっかりしていれば……」
ロビンは自分を責めていた。
しかし、グレイはそんなロビンの言葉を遮って怒鳴りつける。
「馬鹿、そうじゃない!!俺を庇って斬られそうだっただろ!!」
「………!」
あついものが込み上げてきて、ロビンはきつく唇がをかんだ。


  なんでそんなことを…?
  わからないよ…グレイ………。


「シルク!早く、こっちだ。グレイが!!」
アルムはグレイの傷口を押さえながらシルクを呼んだ。
急いで走ってきたシルクは、あまりの出血の量に一瞬息を詰まらせたが、冷静に傷口を確認した。
「まずは早く止血をしないと!!とりあえずリカバーで体力は回復させます。」
そう言うと、シルクは呪文を唱えだした。
白い光がゆっくりとグレイを包み込む。
全身が光で見えなくなると、再びシルクは呪文を唱えた。
シルクの呪文が終わると再びゆっくりと白い光が消えていく。
幾分かだが、グレイの表情が和らいだように見えた。
「リカバーでは体力しか回復しません。早く止血をして安静にしないと……。だれか、包帯を早く!!」
シルクが言い終わるか終わらないかのうちに、クリフが包帯を持って走ってきた。
「大丈夫なのか!グレイは!!?」
クリフは心配そうにグレイの様子をのぞき込んだ。
「大丈夫だ!…もう、あっち行ってろ」
グレイはこんな状態ながら、クリフに悪態をついた。
そして、無理に起き上がろうとするが、傷の痛みに肩を押さえた。
「まだ動くなって。包帯巻くからじっとしてろよ」
アルムはグレイの上半身を支える。
そして、シルクは手早くグレイの上着を取ると、そっと傷口の血を拭き取った。
リカバーの効果で一旦出血は止まったようだった。
傷口に薬を張り手早く包帯で巻いていく。
「とりあえず大丈夫そうかな?…ん?ロビン、血で真っ赤だけど…。」
驚いた目でクリフはロビンを見つめた。
「これは、グレイの血なんだ。俺は…何ともない…。」
ロビンは俯いて首を振った。今にも消えそうな声で呟く。
「それなら早く洗ってきた方がいいよ。」
そうクリフが言うと、アルムも頷いた。
「グレイは俺たちがテントに運ぶから、ロビンは先に行って休んでな。」
アルムの優しい言葉。
でも、どこか冷たい…。
そう思うのはただの気のせいなのかも知れない。
だけど、ロビンはこの場にいるのが怖くなって急いでその場所をあとにした。
走って、走って、皆の声が聞こえないところまで走った。
何も考えずに森の奥へ奥へと。
そして、木の陰にうずくまった。


  目頭が熱くなる。
  涙が溢れそうだった。


  グレイをあんな目に遭わせて置いて、
  逃げ出してしまった事が、
  情けなくて、
  悔しくて…。


  きつく唇をかみしめた。
  泣かないように。
  涙を見せないように。


  グレイ、ごめん。
  もっと強くなるから…。
  今よりもっと、
  強くなるから…。




 琥珀の月_2へ



 ええと。なんかシリアスチックなお話を書き始めてしまいました。途中でロビンじゃなくて私が逃げ出さないように頑張ります。やはりシリアスっぽくなるとどうしても長くなっちゃうんですよね。あれこれと書きたいことだらけで。だけどそれが上手く文章に表せなくって途中で逃げる。今回は一応最後までの話のスジは、ぼんやりと浮かんではいるので逃亡しないように頑張ります。1ヶ月以上更新が遅れたらハッパかけてね!玄海氏!ヨロシク!!
 それより、外伝の戦闘シーン書いたの初めてかもしれんよ!自分。今まで書いたうちわ話にも登場していないですよ。初戦闘って訳です。今までずーっとギャグしか書かなかったってコトです。
 しかしシリアスって調子狂うなぁ〜〜。ペンが鈍ります。(ペンっつーかPC打つ手が鈍る。)しかもエロないし純愛すらない!!!好いた惚れたが全く出てこないんじゃ裏ページに載せる意味あんの?って感じだけど…とにかく今後の展開にご期待下さいませ。始まったばかりですので末永くよろしゅうお願いします。(そんなに長くなる予定は無いけどね)


※続きモノは予期無く文章が訂正される場合が御座いますのでご了承下さい。完結したら一度最初から読み直して頂けると、良いかも知れません。