琥珀の月




ロビンは一人、木の陰にうずくまり瞳を伏せていた。
一人になり、少しだけ落ち着きが取り戻せていたのだろうか。
しかし、それが逆に様々な不安を呼び寄せる。

事情を知った皆が、自分を責めるだろうか。
口には出さなくても…心の中ではどうだろう…。
皆の顔を見るのが、怖い…。



  グレイ、どうしたの?

  ロビンを庇ったんだって。

  で、剣士に?

  咄嗟のことだったからガードもできずに…。

  大丈夫なのか?

  重傷ではあるけど、大丈夫みたいだ。

  で、ロビンは?

  ロビンは何ともないよ。

  そうか、良かった。



  普通の会話。
  きっと、誰も自分を責めていない。
  誰しもに起こりうることだから。
  仕方がない事なんだ、と。
  でも、誰が、ではなくて。
  自分が、自分を責めていた。

  全ては自分のせい…。
  戦いの最中に余計なことを考えていたから。
  誰かではなく、自分の責任でグレイを傷付けてしまった。
  仕方が無く、なんて無い。
  これは、未然に防げたこと。
  そう…、全ては自分のせい…。


  苦痛に顔を歪めていたグレイの顔が脳裏に浮かんでは、その痛みに胸が強く痛む。
  グレイの痛みはこんなものでは無いのに…。
  両手で顔を覆うとして、その手に一瞬息をのんだ。
  既に乾いて、どす黒くなっている手。
  鉄のにおいが強く鼻につく。
  グレイの血。
  本当なら自分が流すはずだった、血…。





「ロビン、こんな所にいたんだ。」
突然声をかけられて、ロビンははっと我に返った。
「もうこんなに暗くなってきたのに…早く戻るよ。」
クリフの言うように、いつの間にかあたりには明るい日差しはなく、山裾は青く陰っていた。
「とりあえず、はい、これ。」
クリフが濡らしたタオルを差し出しながらにこりと笑う。
ロビンは、そのタオルを受け取ることはせずに、再び顔を伏せた。
クリフは何も言わずに隣に座り込むと、なんの了承をえぬままにロビンの手や顔をごしごしと拭いた。
「まだ気にしてるの?グレイのこと。」
なんの躊躇も無いまま、クリフは確信的に問いかける。
一瞬肩を震わせるが、ロビンは何も答えようとはしなかった。
「そんなに気にすること無いよ。戦いの中でこういうことはよくあることだし。だから誰もロビンを攻めようなんて思っていないよ。」
クリフは、ロビンの気持ちを見透かしているようにそう言った。
「なんで…そんなこと…。」
驚いてクリフを見上げるロビンに、クリフは再びにこりと笑う。
「自分もさ、ずっとみんなに守ってきてもらってたじゃん。だから…今のロビンの気持ちがわかる。きっと、あのころの自分みたいに悩んでるんじゃないかなって。そうじゃない?」
ロビンはためらいながらもこくりと頷いた。
「ロビンだって、僕のこと何度も庇ってくれたよね。なんでロビンは庇ってくれたの?」
「なんでって、当然…のことだと思って。仲間だし、親友だし。それにクリフの方が打たれ弱かっただろ?」
ロビンの言葉にクリフはにーっと笑う。
「グレイも同じじゃない?ロビンのこと大事だから、自分よりロビンが傷つくのが嫌だから、咄嗟に前に出たんじゃない?」
「………。」
ロビンは黙ったまま俯いた。
「もし、剣士の攻撃、ロビンが受けてたらもしかしたら死んじゃうかも知れないってグレイは思ったんだと思うよ。」
「………。」
「だって、今の僕もきっと同じ場面にいたら、ロビンのこと庇ってたはずだから。」
「……クリフ…。」
ロビンは一瞬顔を上げるが、再び辛そうに顔を伏せた。
グレイやクリフの気持ちが嬉しいのと共に、悲しかった。
そんなふうに回りから見られていた自分が情けなかった。


ロビンはきつく目を閉じ、唇をかみしめた。
グレイに庇ってもらい、逆にグレイを庇おうとして拒まれた事。
改めて、自分がグレイの重荷になっていたのだと気付いた。
それはグレイだけではない。
自分は、既に皆の重荷になっていたのだという事を痛感した。


情けなさよりも、
悔しさよりも、
悲しくて仕方がなかった。



「とにかく、そろそろ行こうよ。」
クリフはあたりを見回しながら立ち上がった。
「………う…ん。」
本当は皆の元に戻りたくなかった。
誰よりも、グレイと会うことを躊躇った。
しかし、いつまでもこんな所にいては、いつまた盗賊に襲われるかわかったものじゃない。
自分だけ襲われるのならまだしも、クリフまで巻き込む訳にはいかない。 意を決したように、ロビンは重い腰を上げて立ち上がる。
「よし、行こうか。早く森を出ないと、本当に真っ暗になっちゃうからね。」
クリフはさっさと歩きながら後ろを振り返った。
それはロビンがちゃんとついてくることを確かめているようにも見えた。
「心配しなくてもちゃんとついていくよ。」
軽く笑顔を見せるロビン。
「そう?ははっ。」
意をつかれたのか、クリフは照れたように笑い、視線を前に戻した。
しばらく無言のまま、二人は森の中を歩き続けた。
「森の中だから余計に暗く感じるよね。」
「…そうだね」
クリフの半ば独り言とも言える問いかけに、こちらもまた曖昧に返事を返す。
ふとロビンは、何かを思い出したかのように顔を上げて、あたりを見回した。
自分でも気づかぬうちに、かなり森の奥深くまで入り込んでいたことに気付いた。
何も考えずにただただクリフの後をついてきたから気付かなかったが、とても一人では森を抜けられなかったかも知れなかった。
気が動転していたこともあるが、クリフはそんなロビンの気持ちまで推測して、自分を捜しに森の中まで来てくれたのだろうかと、ロビンは思った。


  まただ…。

  また、自分は…。


「…クリフ……。」
ロビンは前を行くクリフを呼んだ。
「なにー?」
クリフは振り返ることなく返事を返す。
「……ごめん……。」
消えそうな声で、ロビンは呟いた。
クリフは歩くのを止めて振り返る。
「それから………ありがとう…。」
今度ははっきりと、礼の言葉をロビンは言った。
「………。」
クリフは何も言わずに、にこりと笑った。



透き通るような琥珀色の月が、いつの間にか二人の姿を照らしていた。



しかし、そんな月の光とは裏腹に、ロビンの心は暗く、暗く、閉ざされてゆく…。



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 ちょっと短めですが、キレが良かったので止めちゃいました。グレイ×ロビンの筈がなんかクリフ×ロビンっぽい?まぁそれは無いのでご安心を。(多分ね、多分…)しかし、グレイのいぬまにクリフってば狙ってるの?って感じでしたね。おいしいトコ取りみたいな(笑)結局グレイは斬られ損か??まぁその辺は続きをお楽しみにぃ!(楽しくないケド)
 相変わらずまだまだエロは無し。いっそこのまま無いかもね(笑)ただひたすらダークな内容になっていきます。スミマセンねぇ。ワタシってばダークな話大好きで♪ギャグ書いてるワタシとはかなりギャップを感じられるかも知れませんね〜(笑)まぁ、とにかくまだまだ続きます☆


※続きモノは予期無く文章が訂正される場合が御座いますのでご了承下さい。完結したら一度最初から読み直して頂けると、良いかも知れません。