琥珀の月




「もう、大丈夫だから。ありがとう、クリフ…。」
森を抜けて、ロビンはクリフに改めて礼を言った。
クリフはロビンの顔をじっと見つめると、苦笑混じりにため息をついた。
「あまり自分を追いつめないようにね。ただでさえロビンは自分よりも他人を大事にする様な所があるから……本当に心配だよ……。」
そう言うクリフにロビンは苦笑いを浮かべた。
「そう言うクリフだって、自分より他人を大事にするタチだろ?」
その言葉にクリフは「え?」と目を丸くする。
「そうだった?まぁ、とにかくグレイもそれほど重傷でも無いだろうから、一目見れば安心できるはずだよ。」
クリフはそう言うと照れたように笑った。
「言い返せるほど、少し、元気が戻ったかな?」
クリフは軽くロビンを肘でこづいた。
「………うん。クリフのおかげかもね。」
「そっか〜。それは良かった。いつもロビンにはホント勇気づけてもらったり、慰めてもらったり…、たまにはオレだって何かロビンの力になりたかったからさ。そうか、オレのおかげか〜。」
クリフは満足そうに笑みを浮かべる。そうかそうかと頷きながらにやにやした笑みは止まらない。
相変わらず一人でにやにやしているクリフに、ロビンは少しだけ癒されたような気がした。
素直に気持ちを表現できるクリフが、羨ましくも感じていた。
「あのさ、嬉しそうな所申し訳ないけど………俺、少しグレイの様子見たいから……。」
遠慮がちに訪ねるロビンに、クリフははっと我に返るとごめんと軽く笑った。
「それじゃ、ありがとう。」
もう一度、ロビンはクリフに礼を述べると、その足でグレイの元へ向かうことにした。
森を抜けるまで、重たかった足取りも少し軽くなったような気がした。
今なら、あまり悲観的にならずにグレイと話がちゃんとできるような、そんな気がした。





「ロビン………。ちょっと良いかしら。」
グレイの元へ急ぐロビンは、突然声をかけられてはっとして振り返った。
「………クレア………さん……。」
クレアは、冷たい視線をロビンに向けていた。
一瞬で少し上向きだった気持ちが、沈んでいくのが感じられた。
クレアの表情から、静かな怒りが読みとれた。
「ここじゃちょっと話しづらいから…場所を変えていいかしら?」
その問いに、ロビンは何も言わずにこくりと頷いた。
「じゃぁ、ついてきて頂戴…」
そう言うとクレアは、その後は何も言わず、振り返ることもせずに黙々と歩いた。ロビンも何も言わずにただその後をついていった。
程なくして、川のせせらぎが聞こえてきた。川辺までくると、クレアは静かに振り返った。
そして、ロビンを睨み付ける。
「貴方のせいだからね!!」
突然突きつけられたその言葉に、ロビンは一瞬で目が覚めたような感じがした。
クレアは間髪入れずに一気に捲し立てた。
「貴方とグレイは親友だし、グレイは貴方の事をとても大事に思っている。それはけして悪い事じゃないと思っているわ。」
クレアは一区切り付けると再びきつくロビンを睨み付けた。
「だけど、貴方は本当に戦う気があるの?自分の身は自分で守らなきゃって言う気持ちがあるの?私にはとてもそんな風には見えないわ。グレイは、いつだって貴方のことを気にかけている。そうじゃなければ、今日だって傷つき倒れていたのは、ロビン、貴方だったはずよ。」
クレアの言葉は、ロビンを失望させるのには十分だった。
グレイが今まで自分のことを気にかけていたなんて、全く気付かなかった。
自分のことに精一杯で、回りの事に何も気付いていなかったことを改めて知ったのだった。
「…………。」
何も言わず俯くロビンに、クレアは苛々を隠せない様子だった。
「どうして私がこんな事を言うのかわかる?」
クレアの問いに、ロビンは小さく首を横に振った。
「私は………グレイを愛しているから………。」
ロビンは驚きの表情を隠せなかった。
クレアがグレイの事を…愛してる?………その言葉は、何度も何度もロビンの中で繰り返された。
「私は、いつもグレイを見つめていたわ。そして……気付いたの。グレイは………貴方をずっと追っている。」
最後は今にも途切れそうなほどか細い声だった。そのままきびすを返すと、クレアは河の方を向いて俯いた。
「どういう…事……ですか?」
まだ話がきちんと整理できないままのロビンは、クレアの言葉が全く理解出来ないでいた。
クレアは静かに振り向いた。その目は潤み、月の光を浴びてゆらゆらと淡く光っていた。
「グレイは私のことを好きだと言ってくれたわ。だから、私もそれに答えた。私も愛していると………。」
二人の間でそんなことがあったなんて全くロビンは知らなかった。確かにグレイとは、クレアのことを可愛いよなぁなどと言っていたことはある。しかし、そんなにもグレイが本気だったとは全く知らなかった。
「だけどね……。グレイは……本当は貴方が好きなのよ。友達としてなのか……もっと別の意味があるのかは解らないけど………。」
「そんな………。」
グレイが……自分を好き?
そんなことがある訳無い。
なぜクレアがそんな事を言い出すのか全く解らない。
「きっとグレイは、その気持ちを紛らわせるために……私に………。」
クレアは淋しそうに顔にかかる髪を耳にかけた。
ロビンは何も言えずにただただ、その一部始終を見つめていた。
すると、突然クレアは意を決したかのようにきつく目を閉じると、再び強い意志を持った瞳をロビンに向けた。
「悔しかったわ………。本当に。」
短い言葉の中には、強い思いが込められていた。
「貴方が、いつまでもそんなだからいけないのよ!いつまでもグレイとべったりしていないで。いい加減一人立ちしたら!?今日だって、貴方がちゃんとしてないから……グレイがあんな無茶したのよ!!」
最後は大粒の涙がぽろぽろと、その大きな瞳から溢れ出していた。
一人、しゃくり上げるクレアを、ロビンはただ呆然と見つめることしかできなかった。
クレアの言葉の一つ一つが、ロビンの心を冷たく閉ざしていった。
「グレイにはもう……近寄らないで……。」
最後にクレアはそう言うと、一人きびすを返し走っていった。
ロビンは一人取り残されたまま、暫くそのまま動こうとはしなかった。





  グレイはクレアさんが好き。
  クレアさんはグレイが好き。
  それなのに…。
  グレイは…。


  なぜ、こんなに悲しいのだろう。
  グレイにはもう、近づくなと言われたから?
  どうして、そう思う……。


  自分にとっても……。
  グレイは……。
  トクベツなソンザイ……?


  解らない。
  何も……。


  グレイの気持ちも。
  自分の気持ちも……。




  閉ざされた心は、簡単には溶け出さない。


  琥珀の月に照らされて、凍えてゆく……。







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 あれ?おかしいなぁ。なんか話がひねくれてきた!!!ここへ来て当初自分の考えていた話と離れてきてしまいました。本当はやおい的恋愛に女の子はあんまり出てくることは無いんだけど…。なんかノリで出てきちゃった。今後の展開に支障をきたさねば良いが…(汗)こうなったもんはしょうがない!気合いでのりきるぞ!
 それにしても、やっぱり女の子は書きやすいって事に気づきました(遅っ)。涙も断然可愛い♪男の子の可愛いにはやっぱり限度があるんだよね〜。まぁ、ここはオトメチックな世界だから男の子が乙女でも全然構わないんだけどね。
 しかし、ロビンヨワヨワですよ。女の子にぎゃふんと言わされてます。ちょっと…まずいわね〜(汗)


※続きモノは予期無く文章が訂正される場合が御座いますのでご了承下さい。完結したら一度最初から読み直して頂けると、良いかも知れません。