コミケに行こう!
「うぉーい!ロビン!!クリフ!!行くぞ!!!」
グレイはぶんぶんと両手を広げて二人の名を呼んだ。
「早くしないと売り切れちまうぜ!!」
アルムは既に足踏み体勢に入っている。
そんな二人の様子にクリフとロビンは恥ずかしそうに俯いた。
「……なんでそんなに気合い入ってんの?」
二人はは〜〜〜っと大きなため息をついた。
何を馬鹿な事を!とでも言いたげな表情でグレイとアルムは顔を見合わせる。
「だってお前!今日は年に一度のコミックマーケットinラムの村通称ラムケの日だぞ!!!」
グレイはそう言うが早いが既に走り出していた。
「そうだ!!どんなにこの日を待った事か。」
アルムも指折り数えながらグレイの後を追う。
「別に俺、興味ないよ。」
クリフがそう言うと、グレイがくるりと踵を返し、クリフの胸ぐらめがけて突っ込んできた。
「ひえ〜〜〜〜。」
クリフは大変脅えたが、あえなくグレイに胸ぐらを捕まれてつり上げられた。
「おぉぉおおぉお前!!!!なんつーこと言うんだ!!!」
グレイはふるふると腕を震わせながら叫ぶ。
「俺たちがどんなにこの日を待ち望んでいたと思っているんだ!!!」
わざわざアルムも戻ってきた。
二人に睨まれてすっかりクリフは血の気が引いていた。
「まぁまぁ…落ち着いて。」
ロビンは慌てて三人の間に入ると二人をなだめた。
「とぉ〜にかく!!!俺たちはこんな事をしている暇はない!!!」
「そうだ!!急がねば!!!」
グレイとアルムはそう言うが早いが再び走り出した。
「オマエらも早く来い!!!」
グレイが振り返って二人を呼ぶ。
「はいはい……。」
仕方なく、クリフとロビンも不本意ながら走って二人の後を追いかけたのだった。
「あ〜〜〜。ロビンとクリフのせいで遅くなった!!!もうあんなに沢山の人がいやがる!!!」
グレイがはぁはぁと肩で息をしながら列の最後尾に付いて毒づいた。
「新作買えるかな………。あ〜〜〜心配だ…。」
アルムも既に息は上がっている。
「なんだかなー……。」
クリフとロビンはそんな二人の様子を白々と窺った。
程なくして開場を知らせるアナウンスが入る。
「うぉ〜待ってました!!」
グレイとアルムには明らかに気合いがみなぎっている。
「ところで、今日アルムは何を買うんだ?」
グレイがアルムに問いかける。
「俺は北海派玄海灘先生の新刊を買う予定だ。」
アルムは財布の中の万札をちらつかせた。
「そう言うグレイは、やっぱりあの…!?」
「そうさ!R・ミズサワ〜ワの新刊を買うぜ……。」
「そうか、健闘を祈る。」
そう言うとアルムとグレイは何故かがっしりと固い握手を交わした。
「………。」
(同じ目標があると仲良いんだ……。)
そんな二人をクリフとロビンは相変わらず冷めた視線で見つめていた。
会場の中に入るともの凄い人人人。
一体何処からこんなに沢山の人が繰り出してきたのか不思議なほどの人の群である。
「ひえぇぇ。そっちに行きたい訳じゃ無いのに〜〜〜。」
「うわっちょっと…進めないよ……。」
馴れないクリフとロビンは早々に人の波に飲み込まれて姿を消した。
いつもならロビンをがっしり掴んで離さないグレイだったが、今日はそれどころではないようだ。必死に人の波をかき分けて、あるスペースを目指して突き進んだ。
同様にアルムも又、人の波をかき分けてどこかへ姿を消す。
「うぉぉぉ!目指すはあの人だかり!!あの新刊を買わねばここに来た意味が無いぜぇ!!!」
グレイは人をかき分けると言うより吹っ飛ばしながら前に進んだ。
「R・ミズサワ〜ワ先生の新刊、のこり後数冊ですぅ。購入希望の方はお急ぎくださぁ〜い。」
ロリコンにはたまらないような売り子の声が聞こえてきた。
「やべぇ!売り切れる!!!」
グレイもその声に少し萌えながら、目の前に立ち並ぶ邪魔な者共を押しのけ張り飛ばした。
そして、ついにR・ミズサワ〜ワのスペースへとやって来た。
「新刊下さい!!」
「それ買います!!」
グレイの声に別の声が重なった。
見知らぬ女性が千円札を握りしめて新刊を指さしている。
「あのぉ。もう一冊しか無いんですぅ。」
売り子が済まなさそうに言う。
「俺が先だった!!」
グレイは怒鳴った。
「い〜〜え!!私の方が先です!!!」
女性も一歩も引こうとしない。
「レディファーストという言葉を知らないの?」
女性は嫌みたっぷりに睨みを聞かす。
「今回はそうもいかん!!しかも自分でそんな事言う奴に絶対渡さん!!!」
グレイも瞳の中にファイアーを燃やしながら言い放った。
暫し二人のにらみ合いが続いた。
「あのぉ、ジャンケンで決めて頂けますか?」
売り子がにっこりと微笑んだ。
「はい、そうします。」
グレイはよい子の返事をした。
「よーし!!それじゃいくぞ!!最初はグー!ジャンケンホイ!!!」
グレイは気合いを込めてグーを出した。
「……………。負けたわ………。」
女性は悔しそうにチョキの指を見つめながらその場を去っていった。
「やった………。俺はやったぜ!!!」
グレイは感慨深げにいつまでも勝利のグーを高く掲げていた。
その時である。
「その新刊下さい。」
又別の声が聞こえてR・ミズサワ〜ワの新刊を掴んだ。
「それは俺様のじゃ〜〜!!!」
グレイは間髪入れずに邪魔楯する輩を吹っ飛ばした。はぁはぁと肩で息をするグレイ。
「あのぉ、買われますか?」
売り子が伏し目がちに上目使いでグレイを見つめた。
「買いま〜す!」
グレイはびしっと千円札を突きだした。
「ハイ。有り難う御座いますぅ。」
売り子はにっこりと微笑みながら千円を受け取ると、R・ミズサワ〜ワの新刊、『愛の逃避行』をグレイに渡した。
「うぉぉ〜!やった!!やっと…やっと手に入れたぜぇ!!」
グレイは満足げにガッツポーズを決めた。
その時、グレイの背後で黒縁の眼鏡の奥で鋭い眼光がキラリと光った。
「も…もしやあなたはグレイさんでは?」
ぼさぼさのロン毛は後ろで一つに束ねられ、ヨレヨレのデニムシャツに色の違うデニムのベストを上にかさね、スカートはベージュのロングフレアー風。ちなみにシャツはスカートの中に入れ、靴はもちろん紐運動靴。バックはもちろんスポーツ型のリュックを片方の肩に掛け、その中からウォークマンのヘッドホンが伸びて首に掛かっている。いわゆる一昔前のおたくと呼ばれる女に声を掛けられた。(ちなみに今現在でも出没が確認されています。)
「ああ?そうだけど……。何?俺になんか用あんの?」
グレイはさもうざったそうに返事を返す。
「いえいえ、用は御座いません。そうですか、いやはやこれは失礼。」
意味不明な事を言いながら謎の女は姿を消した。
「なんなんだ?今のは……。」
グレイはいぶかしげに首を傾げて舌打ちをした。
気を取り直して笑顔でグレイは売り子に向き直る。
「ところで、R・ミズサワ〜ワ先生は今日はいらっしゃらないんですか?」
グレイは礼儀正しく売り子に問いかけた。
「あら?さっきまでいらしたんですけど…。どこかに出掛けてしまったのかしら。」
うさ耳のフリフリピンクのワンピースを着た売り子は、人差し指を口元に当てて考える仕草をする。
「そうですか……。(可愛ええの〜〜〜。)」
グレイはその様子に萌え萌だ!しかしあくまでも冷静を装う。
「あの。R・ミズサワ〜ワ先生に、大ファンです。これからも頑張って下さいって伝えておいて下さい。」
「ハイ!わかりました〜♪」
売り子はぺこりと頭を下げた。
「お願いします。(ええ娘や〜)」
グレイはにやついたまま暫くその場に突っ立っていた。
「おおっと!こんなところでぼやぼやしてられないぜ。早速読むぜ〜!!」
グレイは思い出したかのようにそわそわし出すと、先ほど手に入れた『愛の逃避行』をぺらぺらとめくった。と、そこで突然後ろから押されてグレイは大事な本を落としてしまったのだった。
「うおぉぉぉおお!!!この野郎!!!誰だ!俺様を押したのはぁぁ〜〜!!!」
グレイは怒りをぶちまけるが、皆素知らぬ顔で通り過ぎてゆく。
「クソーーーー!!顔さえわかればボコボコなのに!!!」
グレイは背中をさすりさすり、落ちた本に手を伸ばした。
「あ………!!?」
すると、突然別の手が伸びてきて落ちている本を拾った。
「あ…ありがとう。」
グレイはいいこに頭を下げると、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「……『愛の逃避行』ねぇ…。グレイ、こんな本が欲しかったんだ。」
そこにはロビンがページをパラパラとめくりながら立っていた。
「うぉぉお!ロビン!こんな所で出逢うなんて…。って、いや、それよりも早く本返せ!!」
グレイが慌てて本に手を伸ばそうとするが、ロビンは軽くあしらって再び本に目を落とす。
グレイは諦めてはーっと大きくため息をついた。
「お前は読まない方が良いと思うなー。」
「なんでー?………え?ちょっと…何!?コレ!!何の本!コレは………。」
ロビンは呆然と立ちつくす。
「どうした?」
グレイがその表情を見ようと下からのぞき込むと、我に返ったようにロビンは頬を真っ赤に染める。
「さ………最悪ーー!!」
ロビンはそう言い残すと、慌てて本をグレイに押し付けて人の群の中に消えていった。
「あ〜あ。だから早く返せって言ったのにな。」
グレイはため息をつくものの、慌ててロビンの後を追いかけて行った。
「いやはや〜。北海派先生の作品はいつもいつも為になります!!!」
アルムが珍しくへこへこと頭を下げている。
「いつもありがとう。」
北海派は愛想もそこそこに礼を述べる。そんな態度にもアルムは表情のにこにこを崩さない。
「今回の新刊、『億万長者になるわよ!』もしっかり参考にさせて頂きますよ〜。」
アルムは嬉しそうに本を抱えた。
「いえいえ。」
あくまで冷静を装う北海派だが、その手には万札の束がしっかりと握られている。ちらちらと金を横目で見ながら嬉しげににやりと微笑む。
「この本には10万でも、いや、本来ならもっと支払う価値がありますからね。」
アルムは奥歯の金歯を光らせながら笑った。
北海派はその金歯を見逃さなかった。
「貴方、改名した方が良いわよ。」
北海派は視線を尖らせた。
「なんですと!?」
アルムは驚きの視線を北海派に向けた。そしてアルムは財布の中の万札をちらつかせた。
「そうね…私が改名してあげても良いわよ。」
北海派の言葉にアルムは即答で答える。
「お願いします!」
そしてアルムは数枚万札を北海派の手に握らせる。
北海派は気づかないフリをしつつその万札を静かに懐へ入れる。
「………ふぉ……フォね。貴方、アルバイン・アルム・ルドルフォと名乗りなさい。」
北海派は何かが見えるような仕草をしながらアルムをびしっと指さした。
「有り難う御座います。私はこれからアルバイン・アルム・ルドルフォと改名致します。」
アルムは再び万札を数枚北海派に握らせた。
「ほ〜ほほほ。」
北海派が声高らかに笑う。
「あ〜っはっはっは。」
アルムも負けじと権力者の笑いを披露する。
「ほ〜ほっほっほっ!!!!」
北海派の笑い声が更にヒートアップする。
「わ〜っはっはっは!!!!!」
アルムも更に声を張り上げた。
馬鹿笑いを続ける二人を周囲の人々は避けて通っていく。
(あ〜あ。あの人、騙されてるわ。)
(可哀相に、田舎者なんだろう……。)
静かに耳打ちしながら周囲の人々は遠巻きに二人の様子を窺っていたのだった。
「くそ〜!ロビンの奴、足だけは速いんだよな。」
グレイは必死にロビンを追いかけたものの既にすっかり見失っていた。
仕方なく会場の外に出て辺りを窺う。すると、目立つピンクヘアーが木陰のベンチに座っているのを発見した。
「み〜つけた!」
グレイはにやりと微笑むと息を整えて、背後からゆっくりと近づいた。
「だ〜れだ!」
グレイは目隠しならぬ乳隠しをした。
「………。」
ロビンはにっこりと微笑みながら振り返った。しかし、その眼は笑っていない。
「一度、死んでみる?」
ロビンは何処から取り出したのか、短刀をグレイの喉元に押し付けて穏やかな声でそう言った。
「………ごめんなさい。」
グレイも笑顔で、しかし声は震えながら謝った。慌てて掴んでいた乳を離す。
ロビンは無言のまま短刀をしまうと、グレイから顔を逸らした。
グレイはロビンの様子を窺いながらその隣に腰掛けた。ロビンは何も言わずにそっぽを向いたままだ。
「落ち着いた?」
暫く時間をおいて、グレイがロビンの表情をのぞき込んだ。グレイが声を掛けると、ロビンは再び頬を赤らめる。
「バカッ!何しに来たんだよ!!!」
ロビンは声を荒らげて、顔を背けた。
「そんなに怒るなよ。」
ちょっとちち触っただけじゃん。グレイは口を尖らせた。
「許してよ。」
グレイは再びロビンの顔をのぞき込む。
「グレイのバカ!!変態!!そっちじゃないよ!ばかっ!」
ロビンはグレイの顔を押しのけた。グレイの顔が歪む。
「おいおい、ヤメロって…。」
グレイは困ったように、男前の俺の顔が崩れちまうぜ…と歪んだ顔のまま笑った。
「何?あの本、絶対おかしいよ……。」
そう言ってロビンは、先ほどの本の中身を思い出したのか再び赤面した。
「え〜!!そんな恥ずかしいこと書いてあったのか?」
グレイは嬉しそうに『愛の逃避行』を取り出すとパラパラとめくった。
そんなグレイの様子を訝しげにロビンは見つめる。
「え〜なになに?
『あっ…ダメ…グレイ…そんな……あっ……。』
『止めて下さいって言えるんなら…止めてやるよ……。言えるのか?』
『意地悪……そんなこと…言える訳無いのに……。』
『愛してるよ……ロビン。』
『あぁん……グレイ…!!もっとぉ……。』で〜、続きは……?」
「やめんか〜〜〜!!!」
朗読を始めたグレイをロビンは慌てて制した。
「何だよ〜。これからだろう〜?」
グレイは残念そうに本から顔を上げる。
「だからっ!!一体!!何なんだよ!コレは!!!」
ロビンは相変わらずの赤面顔で本を指さした。
「コレって、同人誌?」
「そんなの見ればわかるよ!そうじゃなくって……何で…その…出てる名前が……。」
言いづらそうにロビンは俯いていく。
「あ〜!そりゃー、R・ミズサワ〜ワ先生が俺らを題材にして話を考えてるからさ〜。」
平然と言うグレイに、ロビンはがっくりと肩を落とす。
「もー。信じらんないよ……。」
は〜っと大きくため息をついた。
「早く帰って続き読も〜!!」
グレイは足取り軽くスキップを始めた。
「ちょっと!グレイ!!もしかして、そんな本沢山隠し持ってるの?」
ロビンの問いにグレイは考える仕草をする。
「ん〜そうだな〜〜〜。」
指折り数えるグレイ。
「ざっと見ても100冊はあるんじゃないか?いろんな作家さんが書いた、恐怖のグレイ×ロビン!」
自慢げにグレイはパーの手を前に出した。(ちなみに何処を探してもそんなモノは見つかりません。あしからず)
「サ・イ・ア・クー………。」
ロビンはガックリした。
グレイは足取り軽く家路につく。グレイの後を足取り重く、どっと疲れたロビンはのろのろとついていった。
アルムは相変わらず北海派玄界灘氏と馬鹿笑いを続けていた。
クリフは人の波にさらわれたまま、いまだ会場内をグルグルと巡っていた。
「あ!R・ミズサワ〜ワさん。こんな所にいらしたんですかぁ?」
うさ耳のロリ売り子が木の陰に隠れる女に声を掛けた。
「しっ静かに……。今、良い所よ!!」
メモ帳を片手に、グレイとロビンの様子をこっそり覗き見ていたようだ。
「ネタが溢れ出てくるわ〜〜〜!!萌え萌えよぉ〜〜〜!!!」
素早くメモ帳に何かを書き込んでいる。
「それにしても…どうして今日はそんな格好をしているんですか?」
売り子は不思議そうにして言う。
「なあに?そんなこと気にしていたの?」
女はメモ帳から顔を上げると黒縁眼鏡に手を掛ける。
「コレはね、90年代おたくコスプレよ!!」
眼鏡をピンッと投げると女は仁王立ちした。
その出で立ちは先ほどのおたく女だった。
「ロリィタにも飽きたのよ!!!ホホホホホ!!!オーホホホ!!!!」
おたくファッションのR・ミズサワ〜ワは、恥ずかしげも無く高笑いを上げた。
「オホホホホッ!!!!オ〜ホッホッホ!!!」
その声はいついつまでもラムの村一帯に響き渡っていた。
「恥ずかしいんで止めて下さい〜。」
売り子の悲しげな声もいつまでも響いていた。
オワリ
どうもぉ、結構前にネタ出しだけはしてあった話です。久しぶりに同人誌即売会に一般参加した際に浮かんだ話です。現在私はロリィタ小物を作って売ってるんで、同人誌とかはさっぱりなんですけど、やっぱり昔の血がたぎるっているか(苦笑)ああいう所に行くと同人誌とか、作りたくなりますね。でも外伝じゃぁね。無理よね〜(涙)私はこのまま日陰に生きますわよう★
どうでも良いけど恐怖のグレイ×ロビンの同人誌、私も100冊くらい欲しいわよ。自分以外の方が書いたグレイ×ロビン、読んでみたいよぉぉ。誰か書いておくれな。(居ないだろうよ…きっと)
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