ココロノメイロ



大きなお屋敷の前で、ロビンは困惑した表情で立ちつくしていた。
「ここが…今日から俺がお世話になるお屋敷なんだ…。」
ロビンは期待と不安を胸に秘め、おそるおそる扉のベルを鳴らした。

暫くすると、ここで働いているらしい小柄な青年が扉を開けて顔を出した。
「どちら様ですか?」
気の弱そうなその青年は、やっと聞き取れるほどの小さな声で用件を聞く。
「あの、今日からこちらでお世話になるロビンです。」
「ロビンさんですね。お話は伺っております。どうぞ中へお入り下さい。」
ロビンがそう言うと、青年は丁寧にお辞儀をし、ロビンを屋敷の中に招き入れた。

外から見ても立派な屋敷は、中も例外になくとても綺麗な作りだった。ロビンはその内部に圧倒され、暫く呆然と立ちつくしていた。
「いかが致しましたか?」
なかなか歩を進めぬロビンに、先ほどの青年が扉を開けて声を掛けた。
「あ、すみません…。」
ロビンは慌てて青年に促されるままに部屋の中に入った。
室内にはきらびやかな食器が飾り棚に綺麗に並べられ、その中央には立派なソファと、小さなテーブルがおいてある。青年はソファの横に立つと、促すような仕草をした。
「こちらに座ってお待ち下さい。」
青年はそう言うと部屋を出ていった。
一人で部屋に残され、ロビンは居心地が悪そうにソファに腰掛けた。
初めてのそのソファの感触に思わずため息が漏れる。
しかし、あまりに今までの自分の生活とのギャップに、途端に不安が込み上げてきた。
こんな所で、自分はやっていけるのだろうか、心配だけが募っていく。

「良く来てくれたね。」
突然ガチャリと扉が開き、品の良さそうな青年が顔を出した。
「始めまして。この屋敷の主のアルムだよ。これからよろしく。」
アルムと述べたその青年は、つかつかとロビンの元に歩み寄ってきた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
ロビンは慌ててソファから立ち上がり、深々と頭を下げた。
アルムは歳はロビンとそうは変わらない様に見えた。同じ年格好なのに、生まれが違うとこうも差が出るものなのかと、ロビンは自分を恥ずかしく感じた。
「早速君の仕事だけど、主に僕の身の回りのことと、料理全般をお願いするから。よろしく。」
アルムはそう言うとじっとロビンの顔を見つめた。そして突然ロビンの腰を引き寄せ、顎に手を掛けて上を向かせる。
「あ…あの……。」
ロビンはどうすれば良いのか解らずに、されるがままになっていた。
「近くで見ると、ますます可愛いじゃないか。」
そう言って、アルムはいきなりロビンの唇を、自分のそれで塞いだ。
「…………!!!」
突然のアルムの行動に、ロビンは何もできずに硬直していた。
「ごめんね。びっくりしたかい?」
暫くして唇が離れると、アルムはにこりと微笑んだ。ロビンは相変わらず、何が起こったのかも暫く理解できずに呆然と立ちつくしていた。
「君の他にここで働いているメイドを紹介するよ。」
ロビンはアルムの言葉に一瞬眉をひそめた。
メイド…。確かにアルムはそう言った。自分はメイドとしてこの屋敷につかわされたのかと、今になって初めて知った。ロビンが考えごとをしていると、先ほど部屋に案内してくれた小柄な青年と、明るそうな青年がアルムに促されて部屋に入ってきた所だった。
「彼はクリフ。」
アルムは小柄な青年をさしてそう言った。クリフと呼ばれた青年はぎこちなく頭を下げた。
「それから、こちらはグレイ。」
グレイと呼ばれた青年は、にこりと笑みを浮かべるとよろしく。と頭を下げた。
「二人にも改めて紹介するよ。ロビンだ、仲良くしてあげてくれよ。」
アルムに紹介され、ロビンは慌てて頭を下げた。
「よろしくお願いします。」
ロビンがそう言うと、二人もそろって頭を下げた。
「それじゃ、早速だけどグレイ、ロビンに色々と教えてあげてくれるかな?」
「はい、わかりました。」
アルムの言葉にグレイは笑顔で答えると、ロビンに振り返る。
「それじゃ、部屋に案内するから。」
グレイはそう言うとロビンを促した。




長い廊下を、ロビンはただ黙々と歩くグレイの後を付いていく。
暫く歩き、扉の前で立ち止まりその戸を開けた。
「入って。ここがあんたの部屋になるから。」
そう言ってグレイはロビンを促した。
部屋の中にはベッドと小さな机があるだけのこぢんまりとした部屋だった。
落ちつきなく部屋の中を見回しているロビンに、グレイがにこりと笑いかける。
「さっきも紹介したけど、俺はグレイ。よろしくな。」
そう言いながら右手を差し出してくる。
ロビンもおずおずと右手を差し出しその手を握った。
「ロビンです。よろしくお願いします。」
軽く頭を下げる。
「それにしても、どうしてこの屋敷に?」
グレイは何か曰く有りげに小声で呟く。
「それは…。」
ロビンは言い辛そうに口ごもった。
「ごめん、人それぞれいろんな理由があるもんな。」
「…ごめんなさい。」
「謝ることないよ。話したくない事を無理に話す事なんて無いし。」
あくまでグレイは明るく笑う。そんなグレイの様子にさっきから緊張の糸が解れなかったロビンもやっと小さく笑った。
「あ、やっと笑ってくれたね。」
グレイも気を遣っていたのか、表情の和らいだロビンに安堵する。
「それから、俺たちには敬語じゃなくって普通に話してくれよ。な。」
「あ、はい。」
「だから、そんなにかしこまるなって。」
「あ…うん。わかった。」
ロビンはにこりと微笑んだ。
「それじゃ、改めてよろしく、ロビン。」
「こちらこそ、よろしく。グレイ。」
二人は再び握手を交わした。




それから数日、ロビンは少しずつ屋敷の様子にも馴れてきていた。
しかし、未だに馴れないものが一つ。ここで働くために支給された制服、もといメイド服。
初めて同様にメイドとして働いている2人 ――クリフとグレイが着用していたのを見たのにも驚いたが、自分もその服を着なければいけないと言うことに更に驚いた。同じ『メイド』なのだから当然といえば当然の事だったのだが。
この格好にだけは今だ馴れぬままだった。
ロビンはただ呆然と自室の机に腰掛けてため息をついた。

ロビンの他に同様にメイドとして働いているクリフとグレイは、朝から屋敷内の掃除をしたり、洗濯をしたりと、何かと忙しく働いている。
それに比べてロビンは食事の支度をする意外には特に決められた仕事もなく、一人で自分の部屋にいることが多かった。
今日も又朝食が終わると仕事もなくただ無意味に時間を持て余す。
流石に、何もしないでいる事の方が耐えられなくなり、掃除をしているグレイの元を訪ねた。
「俺にも、手伝わせて。」
「いや、大丈夫。ロビンにはロビンの仕事があるだろ?」
グレイは掃除の手を休めずにロビンにそう言った。
「だって、料理だけだし。何もしない時間の方が長すぎて…。」
ロビンはスカートの裾をいじりながら俯いた。
「そのうち、アルム様の仕事がきっと入るから。ゆっくり休んでな。」
グレイは意味深な事をぼそりと呟く。
確かにここに来た時に、アルムは言っていた。『主に僕の身の回りのことと、料理全般』だと。
今やっている仕事は料理全般、アルムの身の回りについては何も話が無い。
「アルム様の身の回りって、どんな仕事?」
「えっと…。まぁ、一度すれば解るんだけど……。」
ロビンの問いにグレイは言いづらそうに言葉を濁す。
「じゃあ、グレイやクリフもアルム様の身の回りの仕事が?」
ロビンは質問を変えてグレイに聞いた。
「ま……まあね……。」
グレイは突然表情が暗くなる。
聞いてはいけないことだったのかとロビンははっとした。
「ごめん。変なこと聞いちゃったかな。ごめん…。」
ロビンは俯いて頭を下げる。
「そんなこと無いよ。…最初は辛いだろうけど…頑張れよ。」
グレイは再び意味深な言葉を残し、ロビンの頭にぽんぽんと軽く触れた。
「うん。ありがとう。」
ロビンは仕方なく、そのまま自室に戻っていった。
(最初は辛いって……どういう事なんだろう……。)
考えても、結局何のことだか解らずに、思考は今日の夕飯の献立へと移っていった。



その日の夜、突然アルムから部屋に来いとの連絡を受けた。
既にシャワーも浴びすっかりベッドへと潜り込んでいたロビンは、慌てて制服に着替えると部屋をでた。
「ロビン!!」
扉を閉めている最中に、突然後ろから聞こえた声にロビンははっとして振り返った。
今シャワーを浴びて来たのか、タオルを片手にグレイがそこに立っていた。
「………こんな時間に……そうか……仕事か?」
自分より先にシャワーを浴び、自室に戻っていたロビンが再び制服を着て部屋を出ようとしている姿にピンときたのか、表情を曇らせてそう言った。
「うん。今、アルム様に呼ばれた所。ごめんね、急いでるから。」
ロビンは足早にそう言うと廊下を進む。
「……頑張れよ。」
グレイはロビンの背中に小声で声を掛けた。
「それしか、俺に言える事なんて無いから。」
グレイは自分にも言い聞かせるように呟くと、静かに自室のドアを開けた。
ロビンはアルムの部屋へと急ぎながら、突然グレイの言葉が脳裏をよぎった。
最初は辛い…と。いったい何の意味があるのだろう。言い知れぬ不安がロビンを襲う。
しかし、考えがまとまらぬ内に既にロビンはアルムの部屋の前にやってきていた。
部屋の前で息を整える。慌てて階段を駆け上ったせいで乱れたスカートとエプロンも整える。
考えていても何も始まらない。ロビンは意を決して部屋のドアを叩いた。

コンコン。
「ロビンです。」

「あぁ、待っていたよ。」
ロビンがドア越しに声を掛けると、暫くして中からアルムの返事が返ってくる。
「入ってきて。」
アルムの了承を得て、少しの戸惑いを残し扉のノブに手を掛ける。
「失礼します。」
ロビンはおそるおそる扉を開けて中に入った。グレイの言葉も気になるし、初めて入るアルムの部屋にも、内心はかなり動揺していた。
「ちょっと待っててくれる?もう少し仕事が残っているから。」
アルムは一瞬パソコンを打つ手を止めて、ロビンにそう指示すると、再びパソコンに視線を移す。
「そこのソファにでも座っててくれるかな?」
アルムはパソコンから目を離さぬままそう言った。
「はい。解りました。」
ロビンは言われたとおりに、ソファに腰を下ろして居心地が悪そうにきょろきょろと辺りを窺った。
大きな部屋の奥にアルムが仕事をしている机。窓際に並ぶ沢山の本。真ん中にはテーブルとソファが置かれている。更に視線を移すと一つ扉がある。きっと寝室になっているんだろう。ロビンはそう思って、他にすることもなく足下に視線を落とした。



「…ン………ロビン。」
「…あ…。」
目の前のアルムの顔にロビンは慌てて飛び起きた。
あまりにも暇過ぎて、ソファで眠ってしまっていたらしい。
「ごめんなさい、俺……。」
ロビンは慌てて頭を下げた。
仕事に呼ばれて寝てしまうなんて、きっと叱られるに違いない。ロビンは覚悟した。
「ごめんね。すぐに相手してあげれなくて……。」
しかし、期待はずれの優しい声が、ロビンの頭上から聞こえてくる。
「え……?」
ロビンは驚いて顔を上げると、すぐ目の前にアルムの顔が降りてきていた。
突然抱きすくめられて唇を奪われる。アルムの舌がゆっくりとロビンの唇の輪郭をなぞっていたかと思うと、突然割って入ってくる。
「ん…んん……!!」
ロビンは慌ててアルムの胸を押し返した。
顔が離れ、はぁはぁと肩で息をする。
「どうしたんだい?コレが、君の仕事なんだよ?」
アルムがにこりと微笑みながら言ったその言葉に、ロビンはドキリとした。
「あ……あの、仕事って……。」
ロビンが困惑した表情を浮かべると、アルムは突然ロビンをソファに押し付けた。
「あの……俺……。」
アルムの顔が再び近づいてくる。
仕事だと言われた以上、抵抗することもできない。
ゆっくりとアルムの唇がロビンの唇に重なる。
アルムの舌はゆっくりとロビンの口腔を這い回っていたと思うと、突然舌を強く吸う。
それだけで、ロビンの息づかいは、自然と熱を帯びていく。
その様子に満足したのか、アルムはロビンから身体を離し、着ていた上着を床に脱ぎ捨てる。
それを、ロビンは焦点の合わない瞳で見詰める。
「さぁ、初仕事だね。ロビン……。」
楽しそうに言いながら、再びアルムはロビンに覆い被さった。
強い腕に組み敷かれて、ロビンにはもう何が何だか解らなかった。



再びアルムの顔がゆっくり降りて来て、唇が重なる。
震える腕で、アルムの体を押し返そうと腕を張るがビクともせず、口付けは深さを増していく。
舌が舌を捉え、口腔を犯す。
上手く呼吸が出来ない。
「…っ…はぁ…。」
やっと解放されるが、なぜか頭がクラクラして躰に力が入らなかった。
しかし、アルムの手が突然ロビンの胸元を広げその胸の突起に触れると、ロビンの躰はびくりと反応を返す。
慌ててアルムの腕を掴み動き回ろうとするのを阻止する。
「どうしたんだい?」
アルムがにこりと微笑む。そしてゆっくりと首元から鎖骨にかけて舌でなぞってゆく。
「や………あぁ……。」
ロビンは自分の声に困惑した。どうしてこんな声が出るのかと、必死に口を押さえる。
「どうして?もっと、ロビンの声を聞かせて……。」
アルムはロビンの胸の突起をぺろりと舐めた。
「やぁ……ん……。」
押し込めようとしても、声が漏れる。背筋がゾクゾクとする。
そうする内にも、アルムの唇はロビンの体を辿り、躰をなぞる手は、スカートをめくり上げてゆっくりと内腿を撫ぜ回す。
「…わっ…や、何して…あっ…。」
人になんて触られたことのない所を、突然握られて躰が震えた。
「今日は何もしなくていいけど…次からはロビンの仕事だからね。」
アルムはにこりと笑うと、突然ロビンのそれを口に含んだ。
「や…あ…あ…っ。」
今までに感じたことのない不思議な快感が、背筋を通って頭を抜ける。
「や…めて……あぁ……んん……。」
アルムの頭を必死に引きはがそうと手で押すものの全く力が入らない。
そうする内にもアルムの巧みな舌使いにふるふると躰に震えが走る。
「やめ……あ……離…して……!」
我慢の限界に達して必死にアルムの頭を押し返す。
「もう……ダ…メ……。」
びくりとロビンの躰がしなる。
ロビンは目の前が真っ白になったような感じがした。
力が抜けたように、ぐったりとする。
「そんなに気持ちよかったの?」
アルムは無理とロビンに聞こえるかの様に、口の中のモノを音を立てて飲み干すとにやりと笑う。
「あ……あの…ごめんな…さい……。」
ロビンは慌ててアルムに謝る。
「どうしてあやまるの?」
アルムは相変わらず口元に笑みを浮かべたまま、ぐったりとするロビンを上から眺め回す。
「あ……あの……。」
ロビンは恥ずかしそうに慌ててはだけたシャツを合わせて、スカートの裾で下肢を隠す。
「ロビンは、こういう事は初めて?」
アルムはロビンの目線に合わせてしゃがみ込む。
「は……はい。」
ロビンは伏し目がちに頷く。
「自分でしたことは?」
「え……?」
アルムの言葉にロビンは目を丸くして顔を上げる。
「ふぅん……。経験はなし……かな?」
ロビンの反応にアルムは満足げに頷く。
「とりあえず、今日の仕事はここまで。続きは又今度にしよう。もう帰って良いよ。」
アルムはそう言ってさっさと自室の寝室へと姿を消した。
暫くすると、シャワーを浴びる音がかすかに聞こえてくる。
「………。」
取り残されたロビンは、慌てて乱れた衣服を整えると、逃げるようにアルムの部屋を後にした。



一気に階段を駆け下りて廊下を走って自室の扉を開けた。後ろ手に扉を閉めると、そのままずるずるとその場にしゃがみ込んだ。虚ろな両の瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
(こういう事…だったんだ……。)
自分は、アルムの欲求を満たすだけの存在。それ以外の何ものでもない。
(ヤダ……。帰りたい……。)
ぽろぽろと落ちる涙は、床に小さなシミを作って消えていく。
ロビンはその日、眠れぬ夜を過ごした。
いつもと変わらない静かな夜。
けれど、ロビンにとっては暗く、辛い夜が更けていく……。




                 to be continues…





 懐で暖めまくったメイド話。ブームが去らぬうちに!とか思って書いたけど…既にもう下火か?まあ良いわ…。
 それよりも、今回は完全なるパロディです。こういうの、苦手な方はどうぞお控えなすって!(ごめん、今水戸黄門やっててつい…)完全なるアルム様独壇場です。どうもグレイも受けのようで……。良いのか?自分!!フフフ………。節操無しとでも何とでも!!
 いらん補足を一つ。みんなメイド服の下のパンツは、一般的な男性下着を着用しています。もちろんブラとかはしていませんよ。そこまではこだわってないです。流石の変態アルム様でも(笑)


※続きモノは予期無く文章が訂正される場合が御座いますのでご了承下さい。完結したら一度最初から読み直して頂けると、良いかも知れません。