運命のルーレット。


もしも、
運命のルーレットというものが存在するのなら、
その歯車は…、
いつ、
狂ってしまったのだろう。



ここは、我が祖国ソフィアを開放せんとして集まった同志のアジトだ。
クレーベ隊長の下、数人の同士で機会を待っている。
どうしたら、祖国を取り戻すことができるのか……。
俺は今日も、真面目に考えていた。



「フォルスさん!」
誰かが俺を呼んでいる。
「フォルスさ〜ん!!」
しつこい。
「フォルスさんってば!!!」
いい加減しつこいので振り返る。
ルカが必死に俺の名を呼んで走り回っている。
「おーい!ここだ。どうしたんだ、そんなに切羽詰まって…。」
俺が声を掛けると、ルカは一旦息を整えて口を膨らませる。
「もう、いらっしゃるなら早く返事して下さいよ…。」
ルカは相変わらずはぁはぁと肩で息を整える。
何をそんなに焦って俺を捜しているのか不思議になる。
「どうしたんだ?」
ルカの呼吸が収まるのを待って声を掛ける。
ルカは慌てて顔を上げると、一言。
「クレーベ隊長が呼んでますよ。」
………。
これで自分は大役を果たせたとでも言った感じで笑顔を見せる。
「隊長の用事って…どうせたいしたことじゃ無いんだろう…。」
俺は隊長のたいしたこと無かった用事を思い出す。


……饅頭買ってこ〜い!
……エロ本買ってこ〜い!(注:美少年図鑑)
……何かむかつくから殴らせろ。
……ズガーーーーン(注:いきなり怒り)

…………良い思いで全く無し。


ガックリと肩を落とす。
俺はこんな所で何をやっているのか…自分が判らなくなる。
ガックリと項垂れていると、ルカはさっさと用件を済ませ立ち去ろうとする。
「ルカ、何処へ行く…。」
ルカはドキリと肩を震わせた。まさに今、彼の心臓はドッキドキだろう。
ホントに判りやすい…。
「それじゃ、僕はここで……。」
必死に笑顔を取り繕うとしているが、その口元はひくついている。
そんなルカの衿を、がっしりと掴んだ。
「ちょっと待て。自分だけ逃げようったってそうはいかんぞ。」
俺の言葉にルカはしゅんと小さくなった。
「僕じゃなくてフォルスさんに用があるって言ってましたよ…。」
往生際悪く、ルカはぶつぶつと小声で愚痴を言う。
「何か言ったか?」
聞こえないフリをしてその場をしのぐ。
「………。」
ルカは諦めたのか、黙って俯いた。
「所で、隊長は何処に?」
俯くルカに問いかける。
「あ、そう言えば南の方にあるラムの村に用があるから、馬を飛ばして先に行ってるって言ってました。」
俺は唖然とした。
「ラムの村かよ……。」
あそこまで歩いて行くのは軽く2〜3日はかかる。
自分は馬があるから良いものの……。
隊長の気まぐれには本当に振り回されてばかりだ。
「仕方がない。ルカ、早く支度してこい。」
俺の言葉にルカは眉をひそめる。
「やっぱり僕も行くんですか?」
「当然。」
きっぱりと言い放つとルカは諦めたのかのろのろと旅支度をととのえだした。
俺も、一つため息をついて…支度に取りかかった。



運命のルーレット。
これも又、
必然の運命。



「あれ!何処へ行くんだ?二人で。」
アジトの入口でパイソンが声を掛けてきた。
「隊長の我が儘にお付き合い……。」
俺が言うと、パイソンはにやりと笑う。
「それはそれは、お勤めご苦労様。」
言葉とは裏腹ににやにやは止まらない。
「5日…、いや1週間くらいは帰れないかも知れないから。留守番頼んだぞ。」
「いえっさ〜!」
パイソンは嬉しそうに敬礼の仕草。
「それじゃ行って来る。」
「行ってらっしゃ〜い。」
パイソンの明るい声に見送られて俺たちはアジトを後にする。
「パイソンさん嬉しそうでしたね。」
ルカがぽつりと呟く。
「一人で、やりたい放題だからな……。」
とは言うものの、アジトの入口でずっと立たされただけで、やりたい放題も何も無いだろうと思ったが、あまりにもパイソンが不憫なのでその言葉はそっと胸にしまい込んだ。


時は巡ってアジトをでて早二日。
何とかラムの村近郊までたどり着いた。

「あ〜くそ!!俺もナイトになれば良かったよ…。」
「そうですねぇ。ソルジャーなんて、いてもいなくてもどっちでもいいですもんねぇ。」
俺たちは、ソルジャーという足枷に苦戦していた。
「何故もっと早く歩けない!!」
「このもどかしい気持ち、皆さんに伝わっていると思います。」
ルカは何故か悟ったかのように天を仰いだ。
「…………。何を隠そう自分たちが一番やりきれんな…。」
「噂に聞く、『速さの指輪』欲しいですよねぇ。」

速さの指輪が欲しい……。
速さの指輪?
昔、そんなモノを持っていたような……。
いや、気のせいか?

「所で、フォルスさんはどうして解放軍に?」
突然ルカが、不思議そうな顔で訪ねてきた。
「パイソンさんに聞いたんですけど…。実はお金持ちのおぼっちゃまだったみたいですが…。」
「………。」
ルカの言葉に俺は眉をひそめた。
「あ、聞いてはいけない事でしたか……?済みません。」
俺の表情を読みとったのか、ルカは申し訳なさそうに頭を下げる。
「いや、そんなことはない。……あの時のことは、自分でも未だに理解できないんだよ。」
「へぇ……。気になりますね。ちょっと……聞いても良いですか?」
ルカが遠慮がちに言う。しかし、その瞳は興味津々。キラキラと輝かせて俺を見つめる。
「(ルカ……。お前の笑顔が眩しいぜ。)………。」
心の中でクサイ言葉を発しておいて、ルカになら話しても良いかと誘惑に負けた。
「あの日、俺は自宅のテラスで午後のアフタヌ〜ンティ〜に舌鼓を打っていた……。」
「うんうん。」
「何かが襲ってきた。……そして、気が付いたら解放軍に入っていた。」
「え〜、それだけですか?」
「それだけだ。」
ルカはまだ納得行かないのか「え〜」などと声を上げながらぶつぶつ言っている。
「その『何か』って…まさかクレーベ隊長…ですか?」
ルカはおそるおそる恐怖の言葉を口に出した。
真実を知るのが怖くて、ずっと目をそらせてきた事実を、ルカはいとも簡単に口にする。
「そうは思いたくないが……。それしか考えられないだろう。」
そうだ、きっとあの『何か』は、クレーベだったに違いない。
あの時、俺は気が付くとクレーベと一緒にこたつで芋干しをぼりぼりかじっていた。
いまいち記憶があやふやだが、当然のようにそうしていた。
そして、速さの指輪は…俺が肌身離さず付けていた指輪だった……。
しかし、今は持っていない。
どこかで落としたのだろうか……。
あの時の記憶は……どうしても思い出せない…。
「フォルスさん。」
「………。」
「フォルスさんってば!!」
考え事にふけっていたせいで、ルカが声を掛けているのに全く気が付かなかった。
「ん?何だ?」
「あの…僕も実はどうして解放軍に入ったのか判らないんです。」
ルカの言葉に俺は興味を憶えた。
「どういう事だ?」
「聞きたいですか?」
「聞きたいな。」
俺が興味津々なのを確認すると、ルカはその時の事を話し出した。
「あの日…僕は一人で留守番をしていました。お母さんに知らない人が来てもドアを開けてはいけませんよと、そう言われていた所までは憶えているんです。」
ルカが一旦言葉を句切る。
「それで?」
俺は話を煽る。
「だけど……。気づくと僕はクレーベ隊長の隣にはべらされていました。」
「で?」
「以上です。」
「………。そうか。」
俺は腕を組んで天を仰いだ。
「ルカもまた、当時の記憶が無いんだな……。」
とても偶然とは思えなかった。そうなるとパイソンやマチルダも……?
いや、これ以上は追求しないでおこう。
「ルカ……。お前は今のこの生活が嫌いか?」
俺は、自分自身にも問いかけるかのようにルカに聞いた。
「え……!?」
ルカは驚いた顔を見せる。暫く考え込んでいる風な素振りを見せて、ゆっくりと顔を上げる。
「最初は、嫌で嫌で仕方なかったけど…。今は、自分を誇りに思っています。祖国のために働けているんですから。」
「そうか……。」
ルカの言葉が胸に引っかかる。
俺も、同じ気持ちだったからだ…。


運命のルーレットが狂ったとしても。
それは必然という運命。
けして狂ってなどいないのだろう…。


「あ!ラムの村が見えてきましたよ!」
丸3日掛けて、ついにラムの村に到着した。
「遅いぞ!!フォルス!!」
隊長が今にも怒りをおとさんかという勢いで怒鳴る。
「隊長、どうしたんですか?急にラムの村に用って……。」
ルカがクレーベに問いかける。
途端にクレーベの表情が軟らかくなる。
「なんだ?ルカも来てくれたのか。」
よしよしと、ルカの頭をなでながら俺には厳しい視線を投げ掛ける。
「ここに来てもらったのは言うまでもない。あそこの村人達を勧誘するんだ。」
クレーベはそう言って村の中を指さした。
よく見れば草むらにご丁寧に監視用の双眼鏡やら雨乞いの道具やら、色々と取りそろえてある。
ずっとここで監視し続けていたのかクレーベよ……。
その熱意があったから、今こうして俺たち頑張ってるんだなと、つくづく思った。
「あの、緑髪と青髪は性格きつそうだからあまり好みじゃない……いやいや戦闘にむかなそうだが、黄色とピンクは俺好み……っと、違う違う。我らの戦力にきっとプラスになるはずだ。」
下心見え見えの説明に思わずため息が漏れそうになるが、そこは大人として我慢する。
「折角ルカが来たのなら、彼らの勧誘はルカに任せよう。朗報を期待している。」
クレーベはそう言うとさっさとアジトへ帰っていく…。
「……。だそうだ。」
俺はルカの顔をちらりと見た。
「そうですね……。頑張ってみます。」
ルカは重い腰を上げて村へ入っていく。


で……。
結局俺は何しに来たんだ?


そうか、これもまた運命。
狂うこと無い……って、滅茶苦茶狂いまくってないか?
本当に…これで良いのか俺は……。


しかし、
俺の思案などとるに足らず、
壮絶なバトルロマンが
今、
幕を開ける。



おわり。





 こちらむぅむさんからのリクエスト『フォルスの旅立ちから現状までのお話を!』とのご希望に、見事叶わなかったです〜(涙)ごめんなさい。多分、ご希望のものとだいぶかけ離れちゃってるかと思います。しかも出だしシリアスか?と思いきや結局外伝外(汗)実は、解放軍の成り立ちは玄海氏とリレー小説やってるんですよ。だから、いずれ今回残っている謎はそちらで解決する予定なんで。気長〜にお待ち頂ければ幸いです。
 今回のフォルスは結構真面目です。こうやってフォルスを主役にして書くと、いかに玄海氏と書いている時のフォルスが可笑しいキャラになっちゃっているかが解りました。真面目フォルスは格好いいよね。改めて痛感。最近ロビンばかり書いていたので、久々の新鮮みを感じもの凄い速度でペンが進みました。これに味を占めて他の人達の話やカップリングも書いちゃおう!!(ニヤリ)